ヒジャブ着用は宗教行為かファッションか

by Daisuke Uriu on

写真:スルタンアフメト・モスク(トルコ・イスタンブール)にて(2014年8月12日撮影)

 

フランスの公立学校ではヒジャブ(ムスリマ<=イスラム教徒の女性>が頭に巻くスカーフ。英語: Hijab, ħijāb アラビア語: حجاب)の着用が2004年以降禁止されている。ヒジャブはムスリマの女性のアイデンティティであるだけでなく、イスラム教徒が多く住む地域においてはファッションアイテムとしての華やかさが目を引く。イスラム教のモスクでは、イスラム教徒以外の女性もヒジャブの着用が義務付けられている。写真は筆者が2014年にトルコを訪れた際に撮影したものだ。

フランスの政教分離「ライシテ」研究で知られる上智大学の伊達聖伸氏は、フランスの週刊新聞社「シャルリー・エブド」への襲撃事件の背景にあるフランスの政教分離原則と、政教分離を過剰に助長するあまりに生まれてしまった宗教風刺の「文化」の存在を指摘する。身分や人種や宗教などの社会的属性を捨象した「個人」が市民として政治参加するフランス共和制の原則を追求した結果として、国家として特定の宗教が規定する規則(例:ムスリマのヒジャブ着用の禁止)を定めるだけでなく、マスメディアによる過激な風刺画の掲載といった慣習を生み出しているのである。

フランスではイスラム教徒の宗教行為として扱われるヒジャブだが、仮にこれをひとつのファッションとして捉えるならば、その「禁止」は非常に奇異なことに感じられる。宗教に対する意識の薄い日本人であればなおさら理解し難い。ところが、宗教とのつながりが根強い地域も例外ではない。

人口の70%以上がイスラム教徒といわれるインドネシアでは、近年、ヒジャブがいわばファッションアイテムとして扱われているという。もともとそれほど戒律が厳しくないため、ヒジャブを着用しない女性も多かった。ところが女優や芸能人がこぞってヒジャブを着けてテレビに出演するようになってから、何枚ものヒジャブを重ねてファッションとして着用する女性が急増した。インドネシア発のムスリマファッションブランドZOYAがカラフルなスカーフの着用法を公開した動画(下記参照)は2013年のインドネシア国内Youtube閲覧件数で8位になったという。筆者が昨年訪れたトルコの都市部でも、カラフルでファッショナブルなヒジャブをまとった女性が街に彩りを与えていた。

宗教あるいは宗教的思想が生み出す芸術・表現には、宗教性を排除した世俗のものとは一線を画す魅力がある。モスク建築や女性のファッションアイテムともいえるヒジャブをはじめイスラーム古来の芸術性もその代表例だ。下記の写真は筆者がトルコで訪れたセリミエ・モスクの内装である。ドーム状のモスクの内部全面に装飾が施されており、これは偶像崇拝を厳しく禁止した結果追求されたイスラーム芸術のひとつである。Islamic Stateをはじめとするイスラム過激派が残虐なテロ行為を繰り返す昨今、あらゆるイスラム教徒に対する差別的な言説が飛び交うのは心が痛む。「悪いイメージ」に対抗できるものは「良いイメージ」の普及以外にはないのではないか。少しでも宗教が持つポジティブな面が強調されればと思う。そのひとつに、長い歴史の中で培われてきた、芸術的・デザイン的な価値がある。

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写真:セリミエ・モスク(トルコ・エディルネ)にて(2014年8月13日撮影)

 

参考文献

(ニュースの本棚)フランスの政教分離 異文化を衝突させぬために 伊達聖伸(朝日新聞 2015年2月8日)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11592291.html

イスラム圏で大流行中の「ムスリムファッション」が華やかで可愛い!(Naverまとめ)
http://matome.naver.jp/odai/2138408534543473301

カラフルなヒジャブ女性が急増! インドネシア女性とヒジャブの歴史 長野綾子(ダイヤモンド・オンライン 2013年11月11日)
http://diamond.jp/articles/-/43896

ヒジャブから見る、インドネシアの経済成長(Walkersインドネシア 2014年3月26日)
http://id.walkers.co.jp/news/single/000316/

Written by: Daisuke Uriu

瓜生 大輔(うりう だいすけ):慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程修了(博士<メディアデザイン学>)。おそらくHCI(ヒューマンコンピューターインタラクション)デザイン研究者。インタラク...